日記

メモ用

恋人たち(映画)

f:id:innimer169:20151222160835j:plain

 

2015年・日本・140分

監督・原作・脚本:橋口亮輔

音楽・主題歌:明星

出演:篠原篤、成嶋瞳子池田良ほか

 

「ぐるりのこと。」で数々の映画賞を受賞した橋口亮輔監督が、同作以来7年ぶりに手がけた長編監督作。橋口監督のオリジナル脚本作品で、不器用だがひたむきに日常を生きる人々の姿を、時折笑いを交えながらも繊細に描き出した。通り魔事件で妻を失い、橋梁点検の仕事をしながら裁判のために奔走するアツシ。そりがあわない姑や自分に関心のない夫との平凡な生活の中で、突如現れた男に心揺れ動く主婦・瞳子。親友への想いを胸に秘めた同性愛者で完璧主義のエリート弁護士・四ノ宮。3人はもがき苦しみながらも、人とのつながりを通し、かけがえのないものに気付いていく。主人公となる3人はオーディションで新人を選出し、橋口監督が彼らにあわせてキャラクターをあて書きした。リリー・フランキー木野花光石研ら実力派が脇を固める。

恋人たち : 作品情報 - 映画.com

 

大学の午後休にフォーラムでたまたま観て、すごく心に残ったので感想を自分用に書いておきます。

 橋口監督作品は一つも観たことがなかったし、俳優さんも存じない方々だった(光石研さんくらい)のでまったくチェックしていなかったんですけど、レビューで高評価だったのでなんとなく観てみることにしました。

観て良かった・・・!

 

あらすじを書くと、主人公は

アツシ…妻を通り魔に殺された男。生きる気力を失い鬱屈としている。

瞳子…平凡な主婦。姑と気が合わず、夫との夫婦関係も冷めている。

四ノ宮…ゲイの弁護士。

の3人の群像劇です。3人が交わることはほとんどなくて、各々のストーリーを追っていく感じ。3人はそれぞれ抱えきれない想いを持っていて(瞳子が自覚的かはわかりませんが)、その想いに対する自己防衛方法もさまざまです。

アツシ…妻を殺した殺人犯は捕まっておらず、損害賠償も貰えていない。理不尽な目に遭っている→とにかく世間への絶望と怒りを滾らせている

瞳子…姑や夫との関係が上手くいっていない→自作のお姫様小説やイラストをかくことで逃避している

四ノ宮…ずっと親友(男)に片想いをしているけれど、彼の家庭を壊すわけにもいかずに恋心を隠したままでいる→依頼人の悩みにはぞんざいなまま弁護士の仕事をしている

こんな感じでしょうか。

 

スタートからしてあんまり幸せそうではない彼らは(特にアツシはかなりヘビーな状況にある)、他人からの心無い言葉や態度に傷ついたりしますが、最終的にはひとつの出来事を乗り越えて再び日常を歩んでいく…というところで映画は終わっていました。

 

感想を書くと、

①役者さんたちの血の通った演技・空気感がとてもよかった

②「痛み」の描写が秀逸だった

③さりげない表現がすごく好みだった

 

①役者さんたちの血の通った演技・空気感がとてもよかった

…テレビなどでは見かけたことのない方がほとんどだったんですが、主演の3人の役者さんの演技が本当によかったです。怠惰な生活感(瞳子)/生活感の無さ(アツシ)、どちらもリアルな空気を作り出していました。設定的にシリアスな雰囲気が続くのかと思ったんですけど、そんなことはなくて、くだらなさに笑えるシーンも沢山ありました。美女水の話とか。

でも、考えてみたらどれだけ落ち込んでる時でもくだらない会話をしたり、しょうがないなあって気分になったりすることってあるし、軽犯罪はこういう冗談みたいなノリが発端になるのかもしれないですね(そしてアッサリ捕まる)。

もちろんシリアスなシーンも良くて、荒れるアツシに黒田が声をかけるところ、黒田が不器用だけど言葉を選んで寄り添おうとしている感じも感動しました。

 

②「痛み」の描写が秀逸だった

…この映画のテーマの一つは「どうしようもなく絶望してしまったとき」だと思うんですが、主人公3人の抱えている(絶望につながる)「痛み」もタイプが違っています。例えが気持ち悪いけれど、アツシはバックリと大きく裂けてしまっている感じ、瞳子は(本人も気づかないほど)すこしずつ皮が削られている感じ(放っておいても問題ないかもしれないけど問題あるかもしれない)、四ノ宮は怪我しているのは分かるけれども放っておいていカサブタになっている(そして作中でべろっと剥かれる)感じだなと思いました。

とにかく、3人が負っている痛みは作中他人の言動によってさらに抉られるわけですが、その抉り方もけして「傷つけてやろう」としているわけではなく…正論だったり、自分の都合だったり、偏見から発せられた、些細なそれらがディスコミュニケーションを生み出してしまうわけで…ここらへんの「痛み」の描写がとにかく丁寧でした。

また、「痛み」が臨界点に達した3人それぞれの感情の発露のしかた(映画の転の部分)もすごくよかったです。

作中、3人とも此処にはいない(もしくはいるんだけど届かない状態になっている)誰かへの告白をしています。ここらへんがタイトルの「恋人たち」=恋う(本来は、時間的、空間的、心理的に離れてしまった対象に思いが残り、それに心ひかれて嘆き悲しむという意味らしいby恋う(コウ)とは - コトバンク)人たち、が表されているのかもしれません。

四ノ宮が途切れた電話越しに自分の想いを伝えるシーンは泣けた…。

 

③さりげない表現がすごく好みだった

・橋梁点検のシーン(本当は直したいんだけど、しょうがないからところどころ点検してやり過ごしている…みたいな台詞)=痛みをやり過ごしている主人公たち

・特報CMにもあった、アツシが川にザバザバ入っていくシーン=三途の川、あの世へ行ってしまいたい気持ち

・四ノ宮がギブスを取るシーン(本当に治ってます?治ってますよ、最初は怖いですよね、みたいな会話)

・ラストの黄色いチューリップ=チューリップ花言葉(赤、黄、白、ピンク、紫の色)英語 | e恋愛名言集

 とか。こうやって列挙するとなんだか味気ないですが、考えさせられる表現がさりげなく他にもたくさん散らばっていました。

 

私は主人公の3人ほどしんどい状況に置かれたことはないけれど、「痛み」に対する対処(とにかく全てがどうでもよくなって怒りに任せてしまったり、現実逃避したり、自分が「痛い」から他人の痛みを無視してしまったり)には共感できるところが多くありました。

 

DVDが出たらまた観たいし、他の橋口監督作品も観てみたいです。