アスパラ日記

メモ用

硝子戸の中(小説)

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1933年・日本・夏目漱石岩波書店

 

硝子戸の中(うち)から外を見渡すと、霜除をした芭蕉だの、赤い実の成ったうめもどきの枝だの、無遠慮に直立した電信柱だのがすぐ眼に着くが、その他にこれといって数えだてるほどのものは殆んど視線に入って来ない。書斎にいる私の限界は極めて単調でそうしてまた極めて狭いのである。…しかし私の頭は時々動く。気分も多少は変る。いくら狭い世界の中でも狭いなりに事件が起って来る。それから小さい私と広い世の中とを隔離しているこの硝子戸の中へ、時々人が入って来る。」

 

 

硝子戸の中(うち)』は漱石が「自分以外にあまり関係のない詰らぬ事」を書くとして連載した連作エッセーです。

一から三十九までナンバーがあり、はじめは冒頭の文章のように漱石のもと、硝子戸の中へ訪れてきた人々や物事について述べられていますが、しだいに漱石自身の記憶のなか(硝子戸の中に沈んでいたもの)のエピソードが描かれ、三十九でまた現在に戻り結びとなっています。

 

五のおわりに「硝子戸のうちから、霜に荒らされた庭を覗く」とありますが、作品全体を通して霜に荒らされた庭(=世間?)は無常でありつつ、懐かしさを感じさせるような手ざわりを持っています。

 

個人的にはヘクト―の話と或女の告白の話、大塚楠緒さんの話が好きです。